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  • 執筆者の写真s.takashi

事業の再構築や新規事業の立ち上げについて考えてみましょう。(第3回:フィット・ジャーニーの視点からA社の行動を振り返る)



今回は、A社がフィット・ジャーニーの流れに沿って、どのように行動していくことが望ましかったのかについて考えてみます。





(1) フィット・ジャーニーのおさらい

フィット・ジャーニーは、簡便的に次のように表すことができます。

事業の再構築や新規事業を進めるにあたり、顧客、顧客の問題、その問題に対する解決策、その解決策を実行するための製品、そして、その製品の上市へと、ステップを順に踏んでいくことが重要です。フィット・ジャーニーに沿って行動していくことで、筋道を立てて論理的に検討を進めていくことができます。


各ステップにかける時間は事案によって異なるため、どのくらいの時間をかければよいのかを明言することはできませんが、論理に重きを置き過ぎてしまうと顧客の問題から視点が逸れてしまい、本筋ではない方向に向かってしまうことが往々にして起きます。また、途中でステップを飛ばしてしまうと論理が飛躍して辻褄が合わなくなり、そうなると自分達の理屈で辻褄合わせを行うことになり、最終的に論理の矛盾と破綻を来すことになってしまいます。


(2) A社が失敗してしまった事由

A社は顧客、問題というステップを飛ばして解決策というステップから始めてしまい、そのまま製品開発へと進んでいきました。顧客、問題、解決策という各ステップ間の因果関係を曖昧にしたまま、一気に解決策へと案ジャンプしてしまったわけです。


A社はまず初めに、これから手掛けようとするサブスクリプション型サービス事業について、事業のコンセプト検証(POC:Proof of Concept)を行わなければなりませんでした。事業コンセプトは、誰に(Who)、何を(What)、どのように(How)に提供していくのか、その要点を簡易にわかりやすくまとめたものです。A社は事業コンセプトをまとめた上で、既存顧客を含めた見込み顧客に対し、顧客が業務においてどのような問題を抱えているのか、何か不都合な事象に直面していないか等について意見交換を行い、顧客目線に立って問題と課題を整理していくことが必要でした。


その上で解決策として考えられるMVP(Minimum Viable Product)を用意し、POCを進めていくべきでした。MVPとは、POCを行うために、顧客に製品・サービスのイメージをつかんでもらうことを目的に用意する必要最小限の機能を備えたモックアップ(模型)です。この時点において完成品を用意する必要は全くなく、POCを繰り返しながらMVPをプロトタイプ(試作品)へと、そしてさらにPOCを繰り返して完成品へと進めていけばよいのです。


(3) フレームワークに沿った行動の重要性

アップル創業者の故スティーブ・ジョブスが言っていますが、「人は形にして見せてもらうまで、自分は何が欲しいのかわからないもの」なのです。顧客は実際に物を見るまでは自分が具体的に何を必要としているのか明確に表現することが難しく、顧客にそれを感じて取ってイメージしてもらうためにMVPが重要になります。そして、顧客がMVPを見てどのように解釈しているのか、どのような場面で使っていけそうかと考えているのか、また使い続けてもらうためにはどうしたらいいのか等について意見交換を重ねていかなければなりません。その意見交換を通して、顧客が言語化できていない真の要求を見つけ出していくことが可能になります。


A社はそのようなプロセスを省いてしまい、完成品レベルに近いサーバーを構築してしまいました。完成品のレベルになってしまうと、やり直したり修正したりすることが極めて難しくなります。それは、企業が埋没費用(サンクコスト:Sunk Cost)に囚われてしまうことになるからです。サンクコストとは、企業が製品開発やプロジェクト実施等に費やしてきた労力や時間、資金等を指し、もはや取り戻すことができないコストのことです。しかし、成功の可能性がないとわかっていても、なおもそのコストを取り戻したいという心理が働いて開発を進めてしまい、撤退の合理的な意思決定が先延ばしにされてしまいます。A社は、顧客のニーズに対応することなく製品開発を進め、完成品の域にまで達してしまいました。背景には、サンクコストにとらわれ、後戻りができなくなってしまったという事情があったわけです。


フィット・ジャーニーというフレームワークの内容は、言われてみれば極めて当たり前のことが並べられています。しかし、「言うは易し、行うは難し」であり、多くの企業においてフィット・ジャーニーを実践できていないように思われます。今一度、自社の行動を振り返り、フィット・ジャーニーと比較されてみることをお勧めいたします。

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