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執筆者の写真s.takashi

事業の再構築や新規事業の立ち上げについて考えてみましょう。(第9回:数字から見た事業の可能性 その2)

 


 前回ご紹介した基本フレームワークにプロットされた数字は、我々にどのようなことを物語っているのでしょうか。

     



1.成長マトリックス

成長マトリックスにおける各戦略の成功率は、次のようになっていました。

■   市場浸透戦略(既存製品・サービスを既存市場で販売): 成功率70%

■   新市場開拓戦略(既存製品・サービスを新市場で販売): 成功率56%

■   新製品開発戦略(新製品・サービスを既存市場で販売): 成功率20%

■   多角化戦略(新製品・サービスを新市場で販売):    成功率 9%    

 



 まず、既に関係が構築されている既存顧客に対し、既存技術に関連した製品を販売していく市場浸透戦略では、成功率が7割と高くなっています。

また、既に販売実績がある製品を新たな顧客に販売する新市場開拓戦略についても、成功率は5割強と高くなっています。

 

 一方、実績のない新製品を既存顧客に販売する新製品開発戦略は、既に関係が構築されている既存顧客を対象にしていることから、敷居は高くないように見えます。

 しかし、顧客にとって実績のない効果未知数の製品を購入することはリスクを背負い込むことであり、購入のモチベーションは低くなります。同じような製品を購入するのであれば、既に上市されている実績のある先行製品を求める方向へとモチベーションが働くことになります。


 さらに、多角化戦略については、実績のない新製品を関係未構築の顧客に販売することから、敷居が極めて高い戦略となります。潜在的顧客群の中から新製品を試用してくれる有望顧客を見つけ出すことができるのであれば、先行者利益を享受することができます。しかし、これは技術力が高く、販売促進活動に多額の資金を投入することができる大手企業でなければ、極めて難しい戦略と言えます。

 

 ここで、新規顧客の獲得コストと既存顧客の維持コストを比較すると、前者は後者の5倍のコストがかかると言われています。新規顧客を獲得するためには、様々な販売促進活動が必要となりますが、接触した見込み顧客のうち、実際に成約に至るのはほんの一握りとなります。

 また、資金力のある大手が行うマス広告は知名度向上には効果があるものの、成約に至る直接的な見込み顧客の獲得については難しいのが現状です。既存顧客を定期的に訪問して問題や課題を深堀りし、新たな製品・サービスの開発につなげていくことで、顧客との関係を強固にすることができ、結果として利益率の向上へとつなげていくことが可能になります。

 

 成長マトリックスの成功率は、中小企業が事業の再構築や新規事業の立ち上げを考える場合に、①市場浸透戦略、または②新市場開拓戦略のいずれかを採ることが肝要であることを示しています。

 




2.競争戦略


競争戦略における各戦略の成功率は、次のようになっていました。

■   差別化戦略(市場全般で差別化した製品・サービスを販売): 成功率22%

■   コスト・リーダーシップ戦略(市場全般に低コストの製品・サービスを販売)

: 成功率 0%

■   集中戦略(特定の市場セグメントで製品・サービスを販売): 成功率70%

 

 結論から述べてしまうと、差別化戦略とコスト・リーダーシップ戦略は資金力のある大手企業に分のある戦略であり、中小企業が採るべき戦略ではありません。中小企業にとっては、大手企業がマスボリュームがないために狙わない/狙っても旨味のないニッチな市場で、自社のポジションを築いていく集中戦略をとることが有益であると言えます。

 

 差別化戦略では、当初は先行者利益を享受できるものの、往々にして資金力のある大手企業に追随されてしまい、その優位性を継続させていくことが難しくなります。まれに差別化戦略で成功を収めている中小企業がありますが、それは大手企業が追随することができない開発力や技術力等を持った、極めて少数の企業に限られます。

 

 コスト・リーダーシップ戦略では、製品の低コスト化を武器に戦うことになるため消耗戦に陥り、大手企業にとっても危険な戦略となります。体力のない中小企業においては、なおさら危険な戦略となります。防衛策として、コスト競争に巻き込まれる前に新たな製品を上市する等の対抗手段が必要になりますが、その新製品もやがてはコスト競争に巻き込まれることになり、それが状態化して常に難しい戦いを強いられることになります。

 

 なお、コスト・リーダーシップ戦略を採る大手企業の中には、意図的に初期の購入コストを抑えて顧客を獲得し、製品とセットとなる消耗品の販売で長期的かつ安定的な収益を確保する消耗品型ビジネスモデルを採る企業があります。付加価値の高い消耗品とのセット販売であるために可能となる戦略であり、一つの参考モデルとなります。


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