前回までは損益分岐点について字面を並べて説明してきましたので、今回は身近な事例を採りあげて考えてみたいと思います。数字や算式が並びますが、なるべく平易に説明していきますので、お付き合いください。

私の家に近くに、とある賞を受賞したラーメン店(以下、R店)があり、品揃えはとてもシンプルで、自慢の一品をリーズナブルな値段で提供しています。お昼時になると行列ができているのをよく見かけますが、夜は閑散としているような印象があります。
仮にR店の商品構成を1杯1,000円のラーメンのみとします。ラーメンの一般的な原価率(麺、スープ、具材)は30~35%と言われていますので、ここでは麺が100円、スープが120円、具材が80円、原価の合計を300円とし、原価率を30%と仮定します。
出店の初期費用(イニシャルコスト)としては、次のような項目が想定されます。

また、店舗運営のための運営費用(ランニングコスト)としては、次のような項目が想定されます。

ここで、R店の1日あたりの来客数を50人、1か月あたりの営業日を25日とすると、R店の1か月あたりの売上は次のように算出されます。
1,000円×50人×25日=1,250,000円
その結果、食材費と広告宣伝費、そして両項目の合計である変動費は次にように算出されます。
食材費: 1,250,000円×30%=375,000円
広告宣伝費: 1,250,000円×5%=62,500円
変動費: 375,000円+62,500円=437,500円
以上からR店の1か月あたりの損益は次のように算出されます。

残念ながら、現時点ではR店の1か月あたりの損益は、187,500円の損失(赤字)となっています。
ここで、損益分岐点売上高を算出してみます。
前々回にご説明の通り、「損益分岐点とは売上と費用が一致している点、つまり利益が0になっている点」のことでした。これを算式で表してみると、次のようになります。
S:損益分岐点売上
ʋ:変動比率
F:固定費
S= ʋ S+F
これを展開するとS-ʋ S=Fとなり、さらにはS(1-ʋ)=F、そしてS=F/(1-ʋ)となります。
この算式にR店の数値をあてはめてみると、次のようになります。
S=100万円/(1-35%)
S≒1,538,462円
R店の損益分岐点売上高は1,538,462円であることがわりました。
R店の1か月あたりの営業日は25日でしたので、1日あたりの損益分岐点売上高は61,539円となります。さらに、ラーメン1杯は1,000円でしたので、R店は61.539、つまり62杯以上のラーメンを売り上げることが必要になります。
現在の来客数は1日あたり50人でしたので、さらに12人集客を増やさなければ損益分岐点に到達することができません。
しかし、集客を増やすと言っても、そうたやすくできることではありません。
次回は、R店について、出店前に考えておくべき変動費と固定費の観点から、損益分岐点の改善について数値を使って考えてみます。
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