同一賃金同一労働のパート有期労働法を詳しく解説
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  • 執筆者の写真藥井遥(社会保険労務士・産業カウンセラー・キャリアコンサルタント・1級FP)

同一賃金同一労働のパート有期労働法を詳しく解説



令和2年4月、同一労働同一賃金の施策の大目玉となる、パート有期労働法が改正されました。


これを機に、同一労働とは一体何を指すのかと疑問を持たれた方多いのではないでしょうか。


同一労働同一賃金については、ネットでも様々な記事より断片的な情報が飛び交っています。中には説明不足より誤解を受けかねない記事もあり、特に人事労務管理業務に従事している型は注意が必要です。


そこで今日は、改正パート有期労働法について法律に基づき詳細な内容について説明します。




不合理な待遇の禁止

パート有期労働法の中核となるの条項を確認します。


(不合理な待遇の禁止)

第八条 事業主は、パート・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。



実はこの8条は今回の改正で新たに規定されたわけではありません。

以前は対象を「パート労働者」に限定して不合理待遇を禁止しており、改正法では8条の趣旨を変えないまま対象を「パート・有期労働者」に拡大させたことになります。


ですので、ここにきて同一労働同一賃金が注目されていますが実は改正により法の趣旨は何ら変わっているものではないということです。



不合理待遇禁止の範囲


よくある誤解なのですが、この規定は全てのパート・有期労働者と正社員の待遇差を無条件で(あるいは能力の差で)禁止するものではないことにも注意が必要です。


パート有期労働法8条では、

・業務の内容

・当該業務に伴う責任の程度

・当該職務の内容

・配置の変更の範囲

等が同じと認められるパート・有期労働者と正社員について、不合理な待遇を禁止しています。



事例に当てはめると、「正社員と全く同じ仕事をしていて正社員並みの責任を負わされているのに、パートというだけで正社員より待遇が低い」「特に意味もないのにパートというだけで交通費が支給されない」というような状況におかれるパート・有期労働者を救済する規定といえます。


第8条ではどんな社員区分で仕事をするのか、ではなくどんな(何の)仕事をするのかを軸に、待遇を決定することが求められています。


逆に言うと、パートと正社員では明らかな職責上の違いがある(会議への出席義務の有無や、業務範囲の違いなど)、正社員には転勤があってパートにはないなどという場合には、その違いの大きさにより均衡のとれた待遇差は許容されます。





労働者から求められた場合の説明義務

改正による新たな規定により新設された規定が、「パート有期労働者と正社員との間に待遇差があった場合の内容と理由について、説明を求められた場合はそれらについて説明しなければならない」というものです。


会社はこれに対応するため、パート・有期労働者と正社員の待遇の相違内容を説明できるよう準備しておく必要があります。

具体的には賃金規定や職務等級表や職務分析結果を提示するなど、労働者がわかるよう資料の提示により説明を行うことが望ましいでしょう。


ただし同一労働同一賃金と一言で言っても、何が均衡か、どこまでが均衡かなどと白黒つけるのは容易ではありません。

何が正解か不正解かということに気を取られすぎるのではなく、そもそものところ会社はどういった思いをもってその手当をつけたのか、どういった役割を正社員やパート労働者に期待しているのか、どんな考えをもってその処遇に差を設けているのか、一度過去を振り返り賃金制度に込めた意味を考えてみる、という作業を行ってみてください。




実際に同一労働同一賃金で労働者からの訴えが提起された場合は、会社はそれに対して誠実に説明義務を果たすことがまず重要です。

ここで労働者が会社に不信感を抱いたり納得しなければ、労働局の「調停制度」により双方の主張をもとに調停が行われたり、民事裁判に移行して違法性が争われることになります。



ですのでこの説明義務の履行は、労使トラブル予防・早期収束という観点で非常に重要な位置づけといえるのです。


行政からの指導、企業名の公表

今回の改正で新たに設けられたわけではありませんが、パート・有期労働法に関する行政指導等について第18条に定められています。


国は、パート・有期労働法に基づき会社に対して指導・助言・勧告を行うことができるとしています。


さらに、以下のパート・有期労働法の規定に違反している事業主が勧告に従わなかったときは、企業名や違反内容を公表することができるとしています。


・第六条第一項(文書交付義務)

・第九条(通常労働者と同視すべきパート・有期労働者の差別的取扱の禁止)

・第十一条第一項(通常労働者と職務内容が同じパート・有期労働者への教育訓練実施義務)

・第十二条(全てのパート・有期労働者の福利厚生施設利用)

・第十四条(待遇差の説明義務)

・第十六条(相談体制の構築)


本条は刑事罰の対象にはなりませんが、国の行う指導について従わない場合は「企業名公表」という社会的ダメージの重い処分に処されてしまいます。




同一労働同一賃金というと、その意味するところがあいまいで実際に何が禁止されて何が目的の規定なのかが分かりづらいかもしれませんが、情報を正しく抑えて必要な準備をとってくださいね。



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