藥井遥(社会保険労務士・産業カウンセラー・キャリアコンサルタント)
夏季における【年次有給休暇取得推進】
夏季は、有給休暇取得届の件数が増える時期です。厚生労働省は、労働者が夏季に年次有給休暇を取得しやすい環境の整備を推進しています。
【参考】
有給休暇の取得に関して事業主が気をつけていくべきことはどんなことでしょうか。

◆年次有給休暇とは
年次有給休暇は、法律で定められた労働者に与えられた権利です。
正社員、パートタイム労働者などの区分には関係なく、一定の条件を満たしている場合に年次有給休暇は付与されます。
条件を満たしていれば、該当者に年次有給休暇の付与を行います。
・半年間継続して雇われている労働者
・全労働日の8割以上を出勤している労働者
付与日数は、継続勤務年数や所定労働日数(時間)よって定められています。
詳しい日数は下記のリンクをご参照ください。
【参考】
◆有給休暇5日間の確実な取得
平成31年4月より、使用者は、法定の年次有給休暇日数が10日以上の全ての労働者に対し、毎年5日間、年次有給休暇を確実に取得させることが義務となりました。
なお、時間単位の年次有給休暇の取得分については、確実な取得が必要な5日間に含めることはできませんので注意しましょう。
【参考】
◆年休管理簿を作成しましょう
5日間の取得義務の施行に伴い、年次有給休暇の管理簿の備え付けも合わせて事業主の義務になっています。
従業員に付与された年休日数、取得した年休日数と時季、残日数等について管理簿を作成しておきましょう(年休は付与されてから2年間有効です)。
昨今は勤怠管理システムにおいて年休管理(年休申請~年休自動付与~年休管理簿調製など)フローが自動化できるようになっていますので、これらのようなシステムの導入も検討されるといいと思います。
◆年休の5日消化義務に対応するため特別休暇を廃止することは可能か
年次有給休暇の5日取得を容易にするため、就業規則にあった夏季特別休暇を廃止して、年次有給休暇で対応することは可能でしょうか。
これまであった特別休暇を一方的になくしてしまうことは、従業員にとって労働条件の不利益変更になります。
労働条件の変更は、それが従業員にとって不利益なものであっても、原則的に従業員との合意のもと、変更が可能です(労働契約法8条)。
従って、比較的小規模の会社であれば、一人一人に特別休暇の廃止について説明・同意を得たうえで、労働条件明示書を再交付することで、制度変更は可能といえます。
しかし、特別休暇廃止に反対の社員がいた場合や、人数が多く一人一人の同意の取り付けが困難な場合はどうすればよいでしょうか。
そのような場合であっても、従業員が被る不利益な程度、変更の必要性、変更内容の相当性、変更に至るまでの労使交渉の状況等が、合理的であるときは、個別の同意を取り付けることなく、就業規則を変更することで特別休暇の廃止が可能です。
ただし、上記に記載の通り、特別休暇廃止にあたって、従業員に何の説明も歩み寄りもない、年休の取得に向けて何の努力も行っていない、特別休暇の恩恵が社員にとって非常に大きなものであったにも関わらず経過措置も一切ないなどの配慮に欠けるなど、その変更に至る従業員への配慮や交渉態度そのものが見られない場合などは、労使紛争に発展した場合は会社の主張が認められないこともあり得ます。
労使紛争に発展してしまうと、労使ともに精神的な負担、時間的な負担が重くのしかかります。
特別休暇の廃止に限らず、労働条件を従業員にとって不利益に変更する場合は、労使紛争を未然防止できるよう、労使との交渉・話し合い・歩み寄りを前提とし、社会保険労務士や弁護士と相談をしながら、慎重に進めてください。