健康保険の扶養家族の手続というと、一般的には「未成年の子供」「同居の配偶者」を扶養に入れるというケースが多いのですが、中には別居する家族を扶養に入れたい、という相談もあります。
例えば、下宿中の学生の子供や、遠方に住む高齢の父母などが当てはまります。
健康保険の扶養家族に入れることができれば、家族は自身で国民健康保険に加入することなく健康保険制度を利用できるので、ありがたいですよね。
結論から申し上げると、収入や続柄の要件を満たすようであれば、別居していたとしても健康保険の扶養家族に入れることは可能です。
詳細の要件や手続について、確認していきましょう。
別居していても健康保険の扶養に入れることのできる家族の要件
同居・別居に関わらず言えることですが、健康保険の扶養家族に入れるためにはその家族が「日本国内に住所を有して」おり、「被保険者により主として生計を維持されていること」が大前提です。
そして、別居していても扶養に入れることができるのは以下の範囲の家族のみとなります。
配偶者、子、孫および兄弟姉妹、父母、祖父母などの直系尊属
上記以外の3親等内の親族(伯叔父母、甥姪とその配偶者など)、内縁関係の配偶者の父母および子については、別居していては扶養家族として認められませんので注意が必要です。
次に、「被保険者により生計を維持されていること」を確認するための、別居する扶養家族の収入要件。
年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)かつ
収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満(別居の場合)
年間収入とは、過去の収入のことではなく、被扶養者に該当する時点年間の見込み収入額のことをいいます。被扶養者の収入には、雇用保険の失業等給付、公的年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金も含まれますのでご注意ください!
扶養に入れたい家族の年収が130万未満で、その額以上の仕送りをしているという状況であれば「生計を維持している」と認められるというわけですね。
税法上の扶養親族との違い
健康保険の扶養家族にいれたいという相談を受けるとき、よく税法上の扶養親族とお話がごちゃまぜになってしまうことがあります。
家族が税法上の扶養親族に該当すれば何が変わるのか?
それは、ずばり納税者に所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合には、所得から一定の金額が差し引かれる「扶養控除」または「配偶者控除」が受けられるということです。
控除対象扶養親族、控除対象配偶者に該当する人の範囲は、「生計を一にしていること」「年間合計所得が48万円以下(給与所得のみの場合は給与収入103万円以下)であること」などとされています。(ちなみに別居していても上記要件などを満たせば扶養親族として控除が受けられます)
税制と健康保険制度はまったく別制度ですので、それぞれ別に考えなければなりません。
税法上の扶養親族と、健康保険の扶養家族はその範囲が異なるため、「税法上の扶養に入るが健康保険では扶養家族には入れられない」という状況が生まれるわけです。
【実例】別居家族を健康保険の扶養に入れる手続とは
私が実際に依頼を受けたのは、別居する弟を扶養家族に入れたいというケースでした。
両親の収入が減少したため、弟の学費・生活費を援助する形で仕送りを開始したことにより、相談者の健康保険への扶養追加を検討していました。
身分は学生でしたがアルバイトによる収入がいくらかあったため、弟さんのアルバイト収入の確認、仕送りを開始した時期、仕送り額、そして戸籍謄本による続柄確認等を行いました。
諸々確認のうえ、いよいよ日本年金機構に提出する「被扶養者異動届出書」を作成しますが、別居の家族を健康保険に加入する場合は、添付書類の準備が少し煩雑になります。
「被扶養者異動届」に添付する書類
・被扶養者の戸籍謄(抄)本(続柄確認のため。ただし被保険者と扶養認定を受ける方双方のマイナンバーが届書に記載されており、当該書類で続柄が届書の記載と相違ないことを事業主が確認した旨を届書に記載することで添付の省略は可能です)
・収入確認書類(ただし今回のケースは被扶養者が学生だったため省略可とされ、その代わりに学生証のコピーを求められました)
※収入確認書類とは、課税(非課税)証明書、直近の確定申告書、雇用保険受給資格者証、年金改定額通知書などが該当します。
※なお、扶養にいれる家族が税法上の控除扶養親族・配偶者となっていることをすでに「給与所得者の扶養控除等申告書」などで確認できている場合は、会社の証明を届出書に記載することで上記「収入確認書類」の添付は省略できます。
・仕送りを確認できる通帳の写しなど(ただし16歳未満または16歳以上の学生の場合は省略可能です)
これらの書類を添付し、会社管轄の年金事務所に提出(持参・郵送・電子申請)することになります。
ただし、管轄の年金事務所によっては上記と異なる取扱いをすることもあるため、事前に年金事務所にご確認いただくことをおすすめします。
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