従業員が、業務上の作業が原因でケガをしてしまったり、会社の敷地内でケガをしてしまうことがあります。
今回は、突然のケガに備えるために、会社が取るべき対応を解説します。
事故を把握した場合、まずはけがの状態など詳しくヒアリングを
まずは、会社は従業員のケガの状態や、ケガが起こった状況をきちんと把握しましょう。
ケガの状態によっては、すぐに病院に行かせたり、
仕事を休ませるなどの対応が必要になります。
会社は従業員に対して安全配慮義務を負っていますので、
業務上のケガに適切に対応することや、
事故の状況を正しく把握し、今後同じような事故が起こらないように対処することが求められます。
ヒアリングすべき事項の例は以下の通りです。
①ケガの状態(部位、症状など)
②事故の発生日時、発生状況、発生場所
③事故の起こった状況や原因(どのような場所で、どのような作業をしている時に、どのような原因(環境)で事故が起こったのか)
④事故が第三者による事故に該当するか
⑤通院の要否
下に述べる労災の申請や死傷病報告書を滞りなく進めるためにも、
これらをフォーマット化してヒアリングするのが良いと思います。
労働基準法上の補償を行う(労災の申請支援)
労働基準法においては従業員が業務上負ったケガについて、会社による一定の補償を義務付けています(労働基準法75条~81条)。
そして労働基準法に定める補償を速やかに実施するため、労働者を一人でも雇用する事業主は労災補償保険への加入が義務付けられ、業務上に負ったケガ等に対する補償は労災補償保険が行います。
労基法上、会社が補償を義務付けられている範囲は、以下の通りです。
①療養補償(治療費の負担)
②休業補償(休業による賃金補償)
③障害補償(障害を負った際の補償)
④遺族補償(死亡した際の遺族への補償)
⑤葬祭料(死亡した際の葬祭料の補償)
会社が加入する労働者災害保険は、これらの補償を一定の保険給付として賄ってくれます。
そのため、業務上のケガにかかる労働者災害補償保険の申請を行うことは、法に定められている会社が行うべき補償義務を履行する、ということになります。
なお、労働者災害補償保険でカバーされない範囲については、労働基準法に定める補償を会社が行わなければなりません(例えば労災保険の休業補償給付は休業4日目以降が補償の対象になりますが、労災休業補償給付が給付されない3日については、会社が平均賃金6割の休業補償を行う必要があります)。
(福井労働局ホームページより抜粋)
労働保険の給付申請は、労働基準監督署や医療機関に対して行うことになります。
会社は、ケガをした従業員がスムーズに労働保険の給付が受けられるよう、
労災申請様式を準備したり、必要な証明を行ったりするなどの対応を取ってください。
※労災の申請手続きについてはこちら↓
労働者の重大な過失の場合については災害補償義務の一部を免れることがある
労働基準法や、労働者災害補償保険法においては、労働者の重大な過失等による業務災害については、
企業は災害補償義務の一部を負わない(保険給付を制限する)とする規定があります。
ただ、治療費や遺族補償の義務は免れないことに注意が必要ですし、労災給付が制限されることは実際は稀であるようです。
労働基準法78条
「労働者が重大な過失によつて業務上負傷し、又は疾病にかかり、且つ使用者がその過失について行政官庁の認定を受けた場合においては、休業補償又は障害補償を行わなくてもよい」
労働者災害補償保険法12条の2
「労働者が、故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となつた事故を生じさせたときは、政府は、保険給付を行わない。
②労働者が故意の犯罪行為若しくは重大な過失により、又は正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより、負傷、疾病、障害若しくは死亡若しくはこれらの原因となつた事故を生じさせ、又は負傷、疾病若しくは障害の程度を増進させ、若しくはその回復を妨げたときは、政府は、保険給付の全部又は一部を行わないことができる。
労働者死傷病報告を労働基準監督署に提出する
労働安全衛生法第100条では、以下のようなケースにおいては遅滞なく、労働者死傷病報告を労働基準監督署長に提出しなければならないとしています。
(1)労働者が労働災害により死亡し、又は休業したとき
(2)労働者が就業中に負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したとき
(3)労働者が事業場内又はその附属建設物内で負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したとき
労働者死傷病報告を提出せず、若しくは、虚偽の報告をした場合は、いわゆる「労災かくし」として、50万円以下の罰金に処されることがあります。
労働者死傷病報告書は、事業場外で起こった「通勤災害」や、休業や死亡が伴わない事故の場合は提出の対象になりません。
また、休業が4日以上の場合と、休業が4日未満の場合では提出時期が異なる点も押さえておく必要があります。
【休業4日以上の場合】
遅滞なく
【休業4日未満の場合】
1~3月分 4月末日までに報告
4~6月分 7月末日までに報告
7~9月分 10月末日までに報告
10~12月分 1月末日までに報告
※届出のフォーマットはこちら→労働者死傷病報告
ちなみに、労働者死傷病報告書の書式は令和7年1月1日に改正され、
電子申請が義務化されますのでご注意ください。
※詳しくはこちら→001292236.pdf
休業日数の数え方
事故が発生した当日は休業日数には含めません。
休業した歴日数をカウントした日数が「休業日数」となりますが、
会社の公休日(例えば土曜や祝日など。ただし法定休日は除く)についても、休業日数に含めてカウントをします。
以上、従業員が会社内でケガをした際の会社の必要な対応でした。
事故が起こらないことが最善ですが、
万一業務災害が起こった時にはすみやかに適切な対応を取れるよう、
会社側が労働災害に関する基本的な知識を持っておくことが望まれます。
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