授業では、これから社会に出る高校生のみなさんに、労働者を保護する「労働基準法」のルールについて少しお話をしてきました。
1日8時間1週間40時間が労働基準法のルールですよ、これを超える場合は特別な労使合意(いわゆる36協定)が必要なんですよ、といったお話もさせていただきました。
授業の後、一人の先生がおっしゃいました。
「私、月180時間くらい残業してます」
聞けば、これほどの時間数勤務しているのに上乗せされるのは年に数万円だとか。
なぜ、このようなことが起こってしまうのでしょう。
公立学校の先生は「地方公務員」である
まず、公立学校の先生は、「地方公務員」であることを押さえておきます。
当然「地方公務員法」という法律が適用されます。
地方公務員法では、民間企業に勤める労働者に適用される「労働基準法の一部」について、地方公務員には適用しないとしつつも、1日8時間の労働時間の原則や、時間外労働を命じる場合に必要な36協定の規定については地方公務員にも適用されることになっています。
公立の先生には「給特法」が適用される
公立学校の先生は地方公務員でありながら、「公立の義務教育諸学校等の教職員の給与等に関する特別措置法(いわゆる給特法)」という、特別の法律が適用されます。給特法第5条では、地方公務員法・労働基準法第33条を読み替えて
「公務のために臨時の必要がある場合においては、教職員に限っては、36協定や行政の許可なく労働基準法に定める労働時間や休日を延長させることができる」
ということを定めています。
原則、公立学校の先生に時間外勤務は命じられない
また、給特法6条にはこんな規定があります。
第6条
教育職員(管理職手当を受ける者を除く。以下この条において同じ。)を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限るものとする。
そしてその「政令」(公立の義務教育諸学校等の教育諸君を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令)には、正規の勤務時間を超えて勤務させる場合の基準として以下が挙げられています。
1.原則として時間外勤務を命じないこと
2.教職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限られること
つまり、公立高校の先生は原則時間外勤務は命じないとしつつ、やむを得ず時間外労働をさせるのは「臨時又は緊急のやむを得ない必要がある」ときだけあるということになります。
残業代が出ないのはなぜなのか
これに対する明確な答えは、こちらも給特法に規定されています。
第三条 教育職員には、その者の給料月額の百分の四に相当する額を基準として、条例で定めるところにより、教職調整額を支給しなければならない。
2 教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない。
給特法は、制定された1970年前後の教職の残業時間の実態等を踏まえて調整額(いわゆる残業代に相当する部分)を「4%」としたそうです。
現在の先生方の労働時間の実態が、まったく反映されていない数値となっています。
しかし、これを違法だとして教師が裁判を起こす例が出るなど、教師の働き方改革が少しずつ注目されてきており、今後の裁判の行方や給特法の見直しの動向には注意が必要です。
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