「年収の壁・支援強化パッケージ」の内容について解説
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  • 執筆者の写真kajihara

「年収の壁・支援強化パッケージ」の内容について解説

更新日:2023年12月3日


やくい社会保険労務士事務所のスタッフkajiharaです。


今回は、2023年9月27日に厚生労働省より発表された「年収の壁・支援強化パッケージ」について解説します。




「年収の壁・支援強化パッケージ」とは



 この支援パッケージが策定された背景として、日本全体の労働力不足という問題があります。

健康保険の被扶養者である「配偶者」のうち約4割は就労しているという厚生労働省のデータがありますが、多くのパートタイマーは住民税・所得税・社会保険料が徴収されないよう就労時間を調整して働いている実態があります。

これを「年収の壁」と呼び、特に年末にかけて働き手が不足するなど、働きたい人の就労を妨げているという切実な課題があります。


 「106万の壁」「130万の壁」など、それぞれの壁についてはこちらのブログをご覧ください。


 今回の「年収の壁・支援強化パッケージ」は、これらの働き控えを解消するための対応策という位置づけとなり、これにより今後の助成制度や扶養認定についてどのような方向性が示されたかを解説します。




 今回示された「年収の壁・支援強化パッケージ」の概要は次のとおりです。


 

 これらは、2025年に行われる年金制度改正を見据えたつなぎ措置としての対応であるため、制度運用期間は「最大2年」とされています。







① 「社会保険促進適用手当」の保険料優遇措置


 
短時間労働者への社会保険加入を促すため、企業側が給与や賞与とは別に「社会保険適用促進手当」を支給した場合、その手当は保険料算定の基礎となる標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しないこととする(社会保険料の算出に含めないので手取り額で損しない仕組み)。

◇対象は、標準報酬月額が10.4万円以下の労働者


◇一定割合を超えて給与・賞与に加えて支給する場合は、キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)の対象とすることも可。


◇保険料算定から除外できる上限額は、本人負担分の保険料相当額となるため注意が必要。




 上記の図のように、労働者の標準報酬月額が88,000円の場合、労働者が負担する厚生年金・健康保険料はおおよそその15%となる13,200円(年額約158,000円)となります。

 企業側も、同額の保険料負担が発生します。


 働いている時間は変わらないのに、給与総額から保険料が控除された分手取収入が減ってしまうのでは、社会保険への加入意欲も上がらず、社会保険に加入しなくて済む水準までさらに労働時間を減らそうとする動きが出てきかねません。


 

 そうすると、働き手が不足している企業は困ってしまうため、企業が本人負担の保険料負担を補填するものとして月額13,200円程度の社会保険適用促進手当(もしくは158,000円の一時金)を支給したとします。


 この場合、増加した月額13,200円の社会保険適用促進手当(もしくは158,000円の一時金)は、標準報酬月額(もしくは標準賞与額)の算定対象には含まなくてよいため、保険料が増加することなく労働者の手取収入はおおよそ社会保険加入前の水準を維持することができるというのが、この新たな仕組みとなります。

※なお雇用保険は総支給額に対して料率をかけることに注意が必要です。





 一方で、企業側からすると、労働者に月額13,200円程度の社会保険適用促進手当(もしくは158,000円の一時金)を支給しているため、企業側にはこの追加の手当負担が発生するになります。


 これでは、パートタイマーの自己負担分の保険料を手当の増額などで補填することが難しい企業では、一定以上働ける人材が不足したり、人材が流出するリスクを負うことになってしまいます。


 そこで、企業側の負担を軽減するために同時に新設される施策の一つが、次に説明する「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)です。







②「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」制度を新設


 
新たに社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入させるとともに、労働者の収入をアップさせる取り組みを行う事業主に対して、「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇コース)」を支給する。


◇社会保険新規加入の1年目と2年目は、標準報酬月額(標準賞与額)の15%以上の手当(前述の「社会保険適用促進手当」での支給も可)を追加支給する

 →1年目、2年目それぞれに1人あたり20万円ずつが助成される。

(もしくは週の所定労働時間を1時間以上延長する→1人あたり30万円が助成される)


◇社会保険新規加入の3年目については、基本給額の18%以上を増額させる(基本給の増額は2年目に前倒し可)

 →3年目に一人あたり10万円が助成される。


◇要件にあてはまる加入者全員への措置となるため人数制限なし。






 ただし、該当のパートタイマーの標準報酬月額ランクが上がれば保険料負担も増えますので、必ずしもすべてのケースで本助成金により保険料増額分全てをまかなえるわけではないことにご注意ください。

(社会保険に新たに加入する被保険者が増えることで生じる保険料負担の一部が軽減されるものと考えてください)








④扶養認定の柔軟化・円滑化



 一時的に130万円以上の収入を超えた被扶養者に対しても、直ちに扶養認定を取り消さない運用を認める。具体的には、労働時間の一時的な増加である旨の等証明書を被扶養者が提出することにより、収入見込み額が130万円以上となったとしても迅速な扶養認定が可能とする。






④配偶者手当の見直しを促進


 企業によっては、扶養する家族がいる従業員に対して「配偶者手当」や「家族手当」「扶養手当」などという名目の手当を支給しているケースがあります。


 各社の就業規則においては、この配偶者手当等の支給要件として配偶者の収入を定めているケースも少なくはなく、社会保険加入用件と並んで配偶者の就業調整の要因の一つとなっている側面があります。


 そこで、この度の年収の壁対応の一連の流れに歩調を合わせるため、今後中小企業においても配偶者手当の見直しのためのフローチャートを示したり(一定収入以上については扶養手当を段階的に設ける等)、セミナーで啓発活動を行うなど、企業へ配偶者手当見直し促進を働き掛けていくこととなりました。







 今回公表された「年収の壁支援強化パッケージ」については、あくまでも施策の方向性を示したもので、具体的な内容についてはこれから詰められていくことになります。


 各管掌機関における具体的な内容についての公表があり次第、お伝えしたいと思います。







※令和5年12月3日「社会保険適用促進手当導入までの手順について解説」の記事をアップいたしました。詳しくはこちらをご参考ください。



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