民法改正による労務管理への影響は
- 藥井遥(社会保険労務士・産業カウンセラー・キャリアコンサルタント・1級FP)
- 2020年3月22日
- 読了時間: 4分
2017年民法の改正法が成立し、2020年4月から改正民法が施行されます。
民法の改正自体は消滅時効や保証、法定利率など大幅な改正ですが、この改正は、労務管理へはどんな影響を与えるのでしょうか。
退職の申出とその効力
現行民法627条では、労働者からの雇用契約の解約の申し入れについて、月給制の場合の月の後半に雇用契約の解約を申し入れた場合は、その翌月の末日をもって雇用契約が終了となる旨を定めています(具体的には、3月31日に退職をしたい月給者の場合、2月の前半までに申出をしなければならない)。
民法改正により退職可能時期が変更に
今回の民法改正により、期間の定めのない雇用契約を労働者から終了させようとする場合には、一律に2週間あれば退職できるようになります。
会社では就業規則に退職の申出に関する定めをしているのですが、多くの場合退職の申出は1か月程度前に申し出ることとしているようです。
これを機に就業規則を変更する必要まではないですが、社員が会社を辞めるという意思を伝えてきた場合(いわゆる合意退職ではなく、社員からの一方的解除通告である「辞職」の場合)、規則上「30日前」がルールであっても辞職を伝えてきた社員を30日間在籍させることは困難と考えた方がよいでしょう。
ただし、退職には上記のように社員からの一方的意思による「辞職」と、労使双方の合意形成に基づく「合意退職」という形があります。
合意退職の場合はこの民法の規定は適用されませんので、社内ルールとして合意退職の申出を1か月前に行う旨の規則はあっても構いませんし、双方の話し合いにより30日以上後に退職日を設定することも当然可能です。ただこの場合においても、会社が圧力をかけて無理やり合意形成を行おうとするすることはできませんのでご注意ください。

賃金債権の時効は当分は3年
賃金債権の消滅時効は、改正民法において短期消滅時効が削除された関係から、民法の特別法である労働基準法においても賃金債権を2年から5年に延長されるべきかという議論が行われてきました。
本件を議論してきた労働政策審議会の令和元年12月の報告書において、一定の検討結果が報告されています。
その報告書によると、賃金債権は改正民法上の短期消滅時効廃止後の債権の消滅時効期間とのバランスも踏まえ、5年とすることを原則としながら、「賃金請求権について直ちに長期間の消滅時効期間を定めることは、労使の権 利関係を不安定化するおそれがあり、紛争の早期解決・未然防止という賃金請求権の消 滅時効が果たす役割への影響等も踏まえて慎重に検討する必要があるため、当分 の間、3年間の消滅時効期 間とする」とされました。
なお、賃金台帳などの債権等の記録の保存義務についても、賃金請求権の時効に合わせて原則5年、当面3年というスタンスが維持されました。
このように、賃金請求権の時効については、民法改正に伴い直ちに5年と延長されるものではなかったものの、5年経過後においては原則の5年とするべきとの検討も踏まえ、今のうちから未払賃金を発生させないような労務管理は必須となります。
年次有給休暇の請求権の時効は今まで通り
年次有給休暇の請求権は、現在2年とされていますが、これについても民法が改正されたことに伴い、時効を延長すべきかの議論が行われてきました。
しかし、労働政策審議会の報告書によると、「年次有給休暇は労働者の健康確保及び心身の疲労回復等の制度趣旨を踏まえれば、年休権が発生した年の中で確実に取得することが要請されているものであり、 仮に消滅時効期間を現行より長くした場合、この制度趣旨にそぐわないこと、また、年次有給休暇の取得率の向上という政策の方向性に逆行するおそれもあること」を理由に、現行の消滅時効2年を維持する方向でまとまったようです。
労基法の改正も令和2年4月1日から!?
以上が、現在の労働政策審議会における一定の見解であり、今後厚生労働省において、令和2年4月の施行に向けて通常国会における労基法の改正をはじめ所要の措置が講じられていく予定です。
ちなみに、どの時点の賃金から改正法が適用されるかという点については、改正民法に合わせて労働基準法施行期日以後に賃金の支払期日が到来した賃金請求権の消滅時効期間から改正法を適用することという見解がなされています。