育児休業や私傷病休業を取得した社員の社会保険料の実務とは
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  • 執筆者の写真kajihara

育児休業や私傷病休業を取得した社員の社会保険料の実務とは

更新日:2023年10月7日



やくい社会保険労務士事務所のスタッフkajiharaです。

今回は、「休職社員の健康保険・厚生年金保険料の実務」について取り上げます。




「休職している社員にも、健康保険・厚生年金保険料(社会保険料)ってかかっているの・・・?」



一般的に休職中において給与は発生しないことが多いのですが、

休職期間中の会社および社員本人の健康保険・厚生年金保険料の負担は発生するのでしょうか?


産休・育休中の社員、そして私傷病により休業している社員、そして休職から復職した後に勤務体系が変更になった社員など、様々なケースにおいてご質問を受けることがあります。


今回は、休職のケース別に、どのような点に気をつければよいのか、実務ポイントを解説します。





1.休職中の社会保険料の取り扱いは?


<産前産後休業を取得して休業している場合>


 産前産後休業(=「産休」として以後表記)で休業している場合は、社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料)が免除されます。

 免除される期間は、産前42日前(多胎の場合は98日前)から産後56日の範囲内になります。

保険料免除を受けるためには、日本年金機構に「産前産後休業取得者申出書」の提出が必要です。


​ポイント ・法定42日前の起算日が属する月から徴収が免除になる ・保険料は月単位、起算日が属する月に1日でも(末日のみでも)該当すれば対象月となる ・出産日が早まる場合は「休業している=働いていない」か判断



 では具体的に産休社員において、保険料免除となる開始月はいつからでしょうか?

産休42日前より体調不良などで休んでいる場合を例に説明します。





(例1)出産を控えて産休前から休んでいる社員の場合

・出産予定日10/1→法定産前休暇42日前:8/21

・体調を崩し医師よりも安静指示があったため7/25から本人希望により休み始める

・7/25~8/20までは残っていた有給休暇を消化した


 上記の場合、法定42日前以前から休んでいる7/1~8/20の期間は免除対象期間に該当しません。

8/21~が対象になります。「産休開始日の属する月」から免除となることから、8月分より保険料は免除となります。



(例2)月末日に産前42日前が該当する場合

 極端な例を挙げますと、7/31が産休開始日であった場合は、7/31のたった1日しか該当していなくても7月分から保険料が免除されます。

これは保険料の徴収計算の基となるのが「産休開始日の属する月」からであり、「日割り」ではなく「1カ月」単位で徴収するためです。その月に1日でも該当日があれば「月初・月途中・月末」のいずれに産休開始日が始まっても、免除となる場合は「その月」からとなります。




(例3)予定日より早く出産した場合

 ただし、実際は予定日より実分娩日(=出産日)が早まるケースも多く、その場合に保険料徴収に悩まれることがあると思います。予定日で算出した月より早まるので、保険料免除となる月は前倒しになるのか?すでに徴収済みならどうしたらよいのか?と悩まれるかと思いますが、この場合に大切なのは「休業をしていること・働いていない」ことが前提になります。


 前倒しになった期間に「働いている」のであれば、保険料免除とはなりません。

産前休暇は予定日から起算し42日前を保険料免除開始日としますが、実分娩日が予定日以前に早まった場合は、予定日ではなく実分娩日に起算開始の条件が移ります。



 実分娩日から遡った42日前に就業しているのであれば保険料免除対象外となり、産前期間が短縮され、産後休暇(56日)も実分娩日翌日から起算されて変更になります。

この場合、産前産後休業取得者申出書の変更届を提出して対応します。


よって当初の産前産後休暇全体(およそ98日)が短縮となる=保険料免除期間が短くなります。










(例4)出産予定日以降に出産した場合

(例3)とは反対に、実分娩日が遅くなる場合は、産前期間休暇(42日)は変更されません。

産後56日は、予定日ではなく実分娩日を基に起算するので、2週間遅く出産となれば=14日分、実分娩日以降に期間が後ろに延長されます。


 こちらも産前産後休業取得者申出書の変更届で、産後休暇の終了日を延長する修正があります。よって出産予定日より実分娩日が遅くなれば産後休暇期間が長くなる=保険料免除期間が長くなります。







 なお稀なケースかと思いますが、産休を取得する間も給与が満額支給しているような場合も、保険料が免除されます。

 保険料免除となるかは給与支給の有無ではなく、保険料免除の前提条件「働いている/働いていない」で捉えます。給与は支給されているものの「働いていない」ので、保険料免除月として対象になります。これは出産手当金が、産前産後休暇で働いていなくても休業補償として支給されるのと同じように捉えていただくと分かりやすいかと思います。






【雇用保険料について】 ちなみに雇用保険料には産休・育休による免除制度はありません。 雇用保険料は「給与支払いがあったか」で判断します。 よって前月の残業代などが支給される場合は、支給金額の多い少ないに関わらず、基本給等の支払いがなくても計算すべき給与が発生しているので雇用保険料を徴収します。 給与支給が1円でもあれば徴収する/0円であれば徴収しない」と捉えてください。








〈育児休業を取得して休業している場合〉


 産前産後休業の後、そのまま育児休業を取得する場合、日本年金機構に「育児休業等取得者申出書」を提出することで引き続き保険料は免除されます。

 育児休業に伴う保険料免除期間の終了は「職場復帰日の翌日が属する月の前月」とされています。


 分かりにくい言い回しのため少しとらえにくいですが、前述の産休における保険料免除の「1カ月単位」で捉えるのと同様に、その前月までが免除対象となります。

なお月末に復帰日が係る場合に、終了日によって免除月が1カ月変わってしまうので注意が必要です。


(例)

 ・7/31復帰(翌日8/1 )→復帰日の翌日が属する月=8月→7月分までが保険料免除

 ・7/30復帰(翌日7/31)→復帰日の翌日が属する月=7月→6月分までが保険料免除


ポイント:育児休業が終了するときは復帰日翌日が同月内なのか翌月なのかをチェック






<私傷病で休業している場合>


 私傷病で休んでいる場合は産休・育休社員とは異なり、保険料の免除制度はありません。

「休業している・働いていない」状態は同じですが、出産とは異なり、給与支払いがない=0円であっても保険料を徴収します。

 この場合「給与支払いがないのに、どうやって保険料を本人からもらえばいいのか?」が会社側にとって対応に苦慮されるポイントのため、よくご相談を受けます。


 このような場合は、トラブルを避けるために事前に社員本人と取り決めを行うことをお勧めします。


 徴収方法としては、①翌月までに会社に振り込み手配してもらう、②休職が明けたら一括で支払う(毎月の保険料は一旦、会社で負担しておき、給与から天引きするなど)など、状況に応じて行われるとよいでしょう。


 ①の方法であれば、毎月納付する社会保険料総計にずれが生じにくく、把握しやすいかと思われます。保険料を徴収する場合は月単位で納付します。日割り計算での徴収はありません。

ポイント:原則、社会保険は休業していても徴収する(徴収方法は必ず取り決めを行う)



(例)給与締め:末日締めの翌月20日払い

・8/31までは通常どおり出勤していた

・9/18から欠勤している→10/20を過ぎても復帰の見通しが立っていない。

8~10月とも保険料は徴収

・本人との取り決めで8・9月分は9/20支給の8月分より徴収

・10月分以降の保険料は本人より会社口座に振り込み手配してもらう



 




2.休業明け・休業中の社員の保険料の改定はどのタイミングで行うか?



【定時決定(算定基礎届)の場合】


 算定対象月の4~6月に、産休・育休社員および私傷病休職社員がいる場合で3カ月とも基礎日数が正社員の場合:17日未満であれば「出勤している日=基礎日数」がないため、定時決定=算定基礎届における等級の変更は行われません。


 届出自体は行うことになりますが、従前の月額報酬が維持されます。届け出の際は、「病休・育休・休職等」区分にチェックを入れて、実際の勤務日数・金額(出勤していなければ「0日」「0円」)を入力します。


ポイント:日割り計算での減額は届け出要件に該当しない/基礎日数がないので対応なし





【育児休業明けの場合の保険料改定(育児休業等終了時報酬月額変更届)】


 育児休業明け社員の場合、復帰後は勤務時間を短縮して勤務を希望する(時短勤務)社員の方もお見受けします。働き方が変わり、復帰前より給与額が減額支給となるケースが多いかと思います。

 

 時短勤務が始まっても、二等級以上の昇給差がなければ「月額変更届」の対象にはならないのですが、そうすると社会保険料は復帰前の標準報酬月額が維持されるので、給与支給額は大幅に減ったものの保険料は高いままという不利益が生じてしまいます。


 この状況を救済するために育児休業明けの場合は、月額変更届の対応が通常より条件が緩和されます。通常は標準報酬月額に2等級以上の差があって初めて「月額変更届」を提出することができますが、育児休業明けの場合は特例として、1等級変動でも対応可能になります。


 また3カ月の基礎日数のうち17日未満の月があっても、復帰後3カ月で月額変更届対応ができます。対応する場合は、社員本人による申し出が必要となります。

 将来的な展望で考えると、厚生年金額の計算基礎となる標準報酬月額が減ることになるので、その点も含めて社員本人へ説明を行う必要があります。本人の意思を確認したうえで「育児休業等終了時報酬月額変更届」を出されるとよいでしょう。


(例)(給与は末日〆の翌月10日支給)

・5/20復帰(6月支給)   → 出勤日数8日/給与日割り計算あり

・6/1~6/30(7月支給)  → 暦日数30日/満額支給だが減額あり

・7/1~7/31(8月支給)  → 暦日数31日/6月同様の支給額

→・支給月6・7・8月の3カ月の状況を届け出に反映して対応


・6月(5月分)は17日未満だが計算月数に含んでOK

・17日以上ある6・7月平均を基に標準報酬月額が変更される

(算定時の途中入社や休職対応と同じ捉え方)


ポイント:1等級でも対応可能/復帰月から対象月として起算可能



【私傷病休職明けの保険料改定の場合(月額変更届)】


 私傷病で休職していた社員が復帰する場合、育休明け社員と同様に時短勤務から始めて徐々にフルタイム勤務へと移行できるよう取り図られるケースが多いかと思います。

 この場合、遅刻や早退扱いとして給与額を減額して支給する場合は、雇用契約によらない一時的な賃金の低下です。欠勤控除され日割り計算に伴い減額になりますが、日割り計算の基になっている固定賃金は変更されていないため届け出要件に該当しません。


 復職の際には、フルタイム勤務が可能なのか医師の診断書等を踏まえることも判断基準になります。

社員本人と面談し考慮した結果、時短勤務が望ましいと判断した場合は、改めて契約書を取り交わし、時短勤務に合わせて勤務時間・基本給などを変更=固定賃金を変更しているので、月額変更届の対象になります。

ポイント:一時的な減額は対応しなくてOK/固定賃金に変動があれば月額変更届の対応



(例1)

・2ヶ月休職後に、職場復帰となるも遅刻早退が多くみられるので控除して対応

→基本給の変更はないので月額変更届は対応しなくてよい


(例2)

・6ヶ月休職後に、職場復帰となるも医師の診断書を踏まえて時短勤務となった

・時短勤務を継続して行うことが望ましいため契約書を改めて作成

・就業規則に基づき、8時間勤務→6時間により基本給を75%として支給、役職も離れたので各手当も見直しを行った

→固定賃金に変更があったので月額変更届を対応する






次回は、給与計算の途中で給与改定があった場合の月額変更届はいつから行うのか、実質的な補填として支給する項目は月額変更等において給与として計算するのか、70才以上の被保険者の給与変動があっても対応するのかについて解説します。



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