社内でパワハラ相談を受けた時の対応とは
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  • 執筆者の写真藥井遥(社会保険労務士・産業カウンセラー・キャリアコンサルタント・1級FP)

社内でパワハラ相談を受けた時の対応とは

更新日:2020年8月11日

令和2年6月、労働施策総合推進法が改正され大企業について職場におけるパワーハラスメントを防止する措置が義務付けられました。



労働施策総合推進法

第30条 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動で会って、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより労働者の就業環境が害されることのないよう、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなけれなならない。


2. 事業主は、労働者が相談を起こ案ったことや相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。



※就業環境が害されるとは、言動により労働者が身体又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快となったために能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどのことを指します。


この判断については、

「同様の状況で当該言動を受けた場合に社会一般の労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」

が基準とされます。





パワハラの相談事案が生じたら

この改正を受け、社内にパワハラの相談窓口(担当者)を設ける会社も増えてきたかと思われますが、一方で「パワハラ」に関する世間の関心度も高まり、労働局に寄せられる民事紛争相談のうち4分の1が職場内のいじめや嫌がらせという統計が出ています。


そこで、今日は社内窓口へパワハラに関する相談があったときの対処のポイントを解説します。



まずは聞き取りを行い事実把握

パワハラを受けている旨の相談が社内の窓口に寄せられた場合、まずは事実を正しく把握する必要があります。

相談があった時点で、パワハラの事実について認定をするのではなく、まずは本人や当事者、関係者への聞き取りを行うことになります。


なおその時気を付けたいのは、当事者はもちろん関係者に対し、会社に不利な事実を述べたなどとして、聞き取りに協力したことによる不利益な取扱いはしてはならないことです。(労働施策総合推進法第30条第2項)


また、相談者等のプライバシーが守られるよう配慮する必要があります。

もし相談内容について第三者に伝える必要がある場合はその理由を説明し、相談者の同意を得ることに留意しましょう。

パワハラの相談事案の中には、相談内容を組織で共有しないと解決に結びつかないケースも多く、いかに相談者にここを理解してもらえるかが重要になります(かといって無理やりに合意を取ることはできません)。


相談窓口設置と相談の流れのコツ

相談窓口の設置にあたり、

・相談しやすい時間や場所(個室)を確保する

・相談者は複数で対応、できれば同性の相談者が同席する

・面談を原則とするが、メールや電話での相談も対応する(匿名希望の場合は、匿名であると必要な調査が行えず解決に結びつきづらい点を説明し、できれば面談相談に切り替える)

などという点に気を付けます。




次に、パワハラに関連する相談対応の流れを説明します。


①窓口担当者の自己紹介を丁寧に行う

 相談者の不安や緊張をほぐし話しやすい雰囲気を作ることを目的に対応します。

その他プライバシーの保護について説明をしたり、面談時間は1回につき1時間程度を目安とし、それ以上にわたる場合は日を改めて対応する旨を伝えます(相談者が強いストレスを抱えており混乱状態であることを想定し、負担をかけないため)。


②相談内容の概要を聴く

 この時、相談担当者は「そこで止めてくれと言えなかったのですか」などという批評めいたことは控

 え、まずは相談者が伝えたいことを懇切丁寧に聴くに徹する必要があります。


③相談者への苦悩への理解を伝える

 「それは本当に嫌なことでしょうね」「それはつらかったであろうと思います」など、相談者の事実

  の正誤の判定は置いておき、まずは相談に来てくれたことに対してねぎらいの言葉がけを行いまし

  ょう。


④詳しく事態の内容をヒアリングする

  当事者は誰で、いつ、どんな状況で、何を言われたか、それに対して相談者はどのような対応をとったかなどという点で具体的な部分を聞き取りしていきます。相談者の主観が大いに入る部分でもありますので、できる限り具体的に、ゆっくり、客観的事実についてヒアリングを行う必要があります。


⑤事実調査についての合意を得る

 行為者や上司、同僚、目撃者などのうち、どの人から事情聴取を行うかを相談者に確認の上決定します。その際、相談者が匿名を希望した場合は相談者の名前を伏せることを伝えたうえで、だれに、どこまでの範囲を伝えるかということを確認しておきます。


⑥行為者等からのヒアリング

行為者からのヒアリングにあたっても、秘密保持について伝えたうえで、相談者から事前に合意のあった部分について事実確認と相談者の訴える内容について伝えます。

行為者にパワハラの認識がないなど、相談者に対する不満や怒りでヒアリングが進まないこともありますが、対応する担当者は、パワハラ案件についての客観的事実の収集を行っているという前提を崩さず、どんな事実があって、それによって相談者が(又は周囲の労働者が)どう感じているのか、という事実関係を整理しながら進めていきます。

なおパワハラやセクハラ案件については、前述の通り「同様の状況で当該言動を受けた場合に社会一般の労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」という相手の受け止め方を重視して事実認定をしていくことになる、という共有認識が必要となります。


できれば、ヒアリングの際は事前にヒアリングシートを用意し、それに基づきヒアリングを進めることをお勧めします。


⑦事実認定

当事者へのヒアリングの結果、パワハラ案件が互いの誤解や和解可能であると判断できる場合は、相談担当者が相談者と行為者への説明を行うことで解決できるケースもあります。


ただ互いの主張が違う場合などは、社内の検討会(人事担当者や人事部長、労働組合委員長などで結成)などで、対応を検討することになります。

その場合、ヒアリング調査をもとに当事者の日ごろの言動や人間関係、第三者からの事実確認の結果、主張の一貫性や具体性、具体的事実と過去の判例との比較、などを判断基準とし、パワハラの事実認定を行います。





事実認定の結果、①パワハラがあったと判断でき、懲戒に値する場合 ②パワハラがあったとは判断できないが、そのままでは状態悪化の可能性があるため対処が必要な場合 ③パワハラがあったと判断できない場合 と3つのパターンに対応が分かれると考えられます。


これらの判断の結果に応じ、会社は人事異動、本人のメンタルケア、規則に基づく懲戒処分、などの対処を行うことになります。



解決後も相談記録は必ず保管

相談記録票や行為者等からのヒアリング票は、万が一訴訟に発展した場合の重要な資料になるため、プライバシー保護には十分留意の上保存します。


また、解決と思われた後も行為者の言動には目を配り、定期的な面談を行ったり組織全体に対してハラスメントや効果的な指導方法、コミュニケーション手法を学ぶ研修を実施するなど、再発防止に努めることが重要です。



以上、パワハラについて社内の相談窓口に相談があった場合の対処法を説明しました。


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