事業の再構築や新規事業の立ち上げについて考えてみましょう。(第5回:イノベーションのジレンマを身近な事例で考えてみる)
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  • 執筆者の写真seito

事業の再構築や新規事業の立ち上げについて考えてみましょう。(第5回:イノベーションのジレンマを身近な事例で考えてみる)

更新日:2023年11月14日

前回は、インシュリン市場におけるイーライ・リリー社とノボ社の開発競争を採りあげ、イノベーションのジレンマによってCPF(Customer Problem Fit)とPSF(Problem Solution Fit)の前提が覆ってしまう事例に触れました。


今回は、そのイノベーションのジレンマとPSF(Problem Solution Fit)、SPF(Solution Product Fit)の関係について、電気ポットと電気ケトルというごく身近な商品の事例で考えてみたいと思います。



お茶やコーヒー等を飲みたい時、ひと昔前でしたらガスコンロにやかん(ケトル)をかけてお湯を沸かし、魔法瓶に移して保温していました。でも、魔法瓶に移したお湯は、時間が経つとぬるくなってしまうというのが一般的でした。


そのような状況が、電気ポットの出現により一変しました。電気ポット1台があれば、お湯を沸かすことができ、そのまま保温できてお湯はずっと熱いまま。大変重宝され、瞬く間に各家庭に普及していきました。


しかし、電気ポット市場が飽和化していくにつれ、メーカー間の開発競争は激しくなっていきました。各社は、本来の目的であるお湯を沸かすという機能に付随的な機能を加え続け、そして付随機能の高度化を図っていきました。



次々に繰り出される新製品には、大人数分の湯量を一度に用意できる大容量機能、お湯が沸くと音声で自動通知する機能、真空断熱構造を採用して保温に必要な電気を節約する機能、デジタルパネルで温度を調節する機能、実用性とデザイン性を兼ね備えた調度品としての機能、等々、様々な機能を装備するようになっていきました。





ここで改めて一般家庭消費者(以下、ユーザー)に目を向けると、ユーザーがそのような機能を本当に必要としていたのかどうかは疑問です。実際には、大半のユーザーはそのような機能を使い切れていない、使いこなせていないという状況になっていました。


ユーザーは多機能の電気ポットを購入してみたものの、大半はお湯を沸かすという本来の機能しか使っていませんでした。消費し切れなかったお湯は保温するものの、気がつくと長時間放置したままで、最後は廃棄するという光景が日常茶飯事となっていました。


ユーザーの本質的なニーズは、お茶やコーヒー等を飲みたい時に、必要な量のお湯を、手っ取り早く手に入れたいことにありました。保温するというニーズについても、実は副次的なものでした。


しかし、ユーザーは自分自身で本質的なニーズになかなか気づくことができず、高機能な電気ポットを見れば見るほど、実際にその機能を使うか否かにかかわらず、物珍しさから手に入れたい、欲しいと感じるようになります。端的に言えば、メーカーの思惑に見事にはまってしまったわけです。




そのような中で出現したのが、電気ケトルでした。電気ケトルは電気ポットがそれまで装備していたほとんどの機能をそぎ落とし、お湯を沸かすという本来の機能に絞った製品でした。当然のことながら、保温機能は基本的にはありませんでした。


ユーザーはこの電気ケトルを目にして、お湯を沸かしたいという本来のニーズを再認識することになりました。逆に言えば、ユーザーは実際にモノを見るまでは、自分自身の本質的なニーズに気づくことができなかったのです。この電気ケトルは価格面においても、余分な機能がない分、電気ポットに比べお手頃でもありました。


電気ケトルは、電気ポットが確立してきた市場を、オセロゲームのようにひっくり返していきました。それも、短時間のうちに。結果として、電気ケトル市場は拡大し、電気ポット市場は縮小傾向となりました。





ここで、イノベーションのジレンマとCPF、PSFの関係をあえて図示してみると、下図のように表すことができます。


当初、メーカーの基本的なSolution(解決策)は、ユーザーのニーズ(Problem)に的確に対応していました。しかし、市場が拡大する(開発競争が進む)中でメーカーの思惑が多く入り込んでしまい、ユーザーが求める以上のSolutionを創り出してしまいました。


その結果、ユーザーはそのSolutionについていくことができず、基本的なSolutionに対応した電気ケトルへと乗り換えていく(戻る)ことになったのです。




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