第21回:3C分析で繁盛店について考えてみる― 地方都市のパン屋から学ぶ事業再構築のヒント ―
- s.takashi

- 10月5日
- 読了時間: 3分
更新日:10月16日
筆者は人口約20万人の地方都市の出身で、実家はJR東海道線のある駅から車で約15分の場所にあります。駅前には商店街があるわけでもなく、典型的なモータリゼーション地域であり、住民の主な移動手段はマイカーです。
近隣の商店街は郊外型ショッピングセンターに取って代わられ、いずれもシャッター通りと化しています。生活必需品はショッピングセンターでほぼ揃い、さらにAmazonなどのオンラインサービスを活用すれば、日常生活に不自由することはありません。
そんな中、帰省中にウォーキングをしていた際、郊外のロードサイドにぽつんと建つ一軒のパン屋を見つけました。駐車場は7台分あり、周囲に競合店舗は見当たりません。しばらく観察していると、次々と車が出入りし、買い物客が途切れない繁盛店であることがわかりました。
後日、実際に訪れてみると、こじんまりした店内には多種多様なパンが並び、ガラス越しに見える工房では常にパンが焼かれており、焼きたての香ばしい香りが店内に広がっていました。価格は高すぎず安すぎず、手頃感がありました。
帰り道、「なぜこの立地でこのパン屋が繁盛しているのか?」という疑問がふつふつと湧いてきました。そこで、マーケティング戦略の基本フレームである3C分析(Customer・Company・Competitor)を用いて考察してみました。

■ 繁盛パン屋の3C分析
1. Customer(顧客)
① ターゲット層:地元住民(特に車で移動する層)
② ニーズ:
焼き立て・出来立てのパン
見た目も楽しく、味も満足できる商品
手頃な価格で日常的に購入可能
③ 消費行動:
お気に入りのパンを目的買い
ランチタイムやおやつタイムに利用
車での来店が中心
2. Company(自社)
① 強み:
· 豊富な商品バリエーション
· オリジナリティ溢れるクロワッサンなどの人気商品
· 店内に広がる焼きたてパンの香りとライブ感のある工房
② 課題:
· 徒歩でのアクセスが困難(高齢者や学生層の取り込みが難しい)
· 営業時間後半に品薄になる傾向(製造能力の限界)
· 原材料高騰による価格転嫁の難しさ
③ 戦略:
· ポイントカード導入によるリピーター獲得
· 他店にないオリジナル商品の開発・提供
· 子供から大人まで楽しめる商品ラインナップの充実
3. Competitor(競合)
① 主な競合:
· 大手ベーカリー(ショッピングセンター内)
· コンビニ(セブンイレブン、ローソン等)
· 地域密着型の個人ベーカリー
② 競合の動向:
· コンビニは商品開発のスピードと品質向上に注力
· 地域個店は独自性のある商品開発を強化し、ファン層を拡大
■ 分析結果から見える成功要因
このパン屋が繁盛している理由は、以下のように整理できます。
差別化の明確化:店内工房で焼いた出来立てパンという「ライブ感」と「品質」が、他店との差別化要因となっている。
価格戦略の適正化:手頃な価格設定とポイントカードによるリピート促進が、価格に敏感な地元顧客層にマッチしている。
地域密着型の展開:子供から大人まで楽しめる商品構成が、家族層を中心とした地元市場に強く支持されている。
この事例は、事業再構築や新規事業立ち上げを検討する中小企業にとって、重要なヒントを与えてくれます。
立地に依存しない価値提供:立地が不利でも、商品力と体験価値で集客は可能となる。
地域ニーズの深掘り:顧客の生活動線や消費行動を丁寧に分析することで、潜在ニーズを掘り起こせる。
従業員の働きがいにも配慮:工房併設型店舗は、職人の技術発揮の場となり、モチベーション向上にも寄与する。
このような視点を持つことで、地方における事業の再構築や新規事業の立ち上げにおいて、「小さくても強い店づくり」が可能になるのではないでしょうか。


