事業の再構築や新規事業の立ち上げについて考えてみましょう(第10回:ファイブフォース分析)
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  • 執筆者の写真seito

事業の再構築や新規事業の立ち上げについて考えてみましょう(第10回:ファイブフォース分析)

 事業の再構築や新規事業の立ち上げの検討時に陥りがちな思考として、物事が自社に都合よく進むことを想定した次のようなものが挙げられます。

・自分達が狙う業界/市場には、競合企業は存在しない。たとえ存在していたとしても、たいしたことはないはずだ。

・だから、顧客は自分達の製品/サービスを必ず気に入ってくれるはずだ。そして、顧客は自分達の製品/サービスを、自分達の言い値で購入してくれるはずだ。

・その結果、売上と収益は想定通りに伸びていき、自分達が計画した事業の再構築や新規事業の立ち上げは必ず成功するはずだ。

 

 果たして物事は、上記のようにうまく進んでいくのでしょうか。

 残念ながら、物事が想定通りに進んでいくことは少数事例に留まります。往々にして想定外の事象が起こり、結果として見込んでいた売上と収益を確保することができず、途中で計画が頓挫してしまうケースが大半を占めています。想定外の事象を想定内の事象にするために、自社が狙う業界/市場について事前に十分な調査・検討を行うことが重要になります。

 



 



そこで今回は、上記のような自己満足的な計画に陥ることを回避するために、自社が進出している/進出しようとしている業界の構造を分析するフレームワーク、ファイブフォース分析(Five Forces : 5つの力)をご紹介いたします。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 ファイブフォースは、業界/市場を上図のように5つの脅威、即ち「業界内の競合者」「業界への新規参入の可能性」「代替品の出現の可能性」「買い手の交渉力」「売り手の交渉力」に分けて分析し、また、自社の強みと弱みを踏まえて自社の競争力を明確にし、その上で適切な戦略を立てていこうとするフレームワークです。

 

5つの脅威を概略すると、おおよそ次のようになります。

業界内の競合者

既に業界内に存在している同じ製品/サービスを提供している競合企業の脅威であり、競合が多くなればなるほど収益性が低下していく。

業界への新規参入の可能性

参入障壁が低い(参入しやすい)業界では、業界へ新規参入する企業が増えていく。その結果、業界内の競争が激化(レッドオーシャン化)し、収益性が低下していく。

代替品の出現の

可能性

自社の製品/サービスに置き換わる代替品が出現すると、市場シェアを一気に奪われ、なすすべもなく短期間で急激に収益性が低下していく。

買い手の交渉力

買い手側が業界に及ぼす影響力が強いと買い手主導で取引が進み、買い手からの値下げ要求等に応じざるを得ず、収益性の低下が避けられなくなる。

売り手の交渉力

売り手側が業界に及ぼす影響力が強いと売り手主導で取引が進み、売り手の言い値で購入せざるを得ない等、収益性の低下が避けられなくなる。

 

「業界内の競合者」についてはイメージしやすいと思いますので、それ以外の脅威について、身近な事例を挙げてみます。

業界への新規参入の可能性

ユニクロが衣料品市場へ新規参入した当初、量販店や百貨店は鷹揚に構えていたが、同社の力は各社の想像を超えていた。各社は軒並み収益性の低下に直面し、今もその後遺症に苦しんでいる。

代替品の出現の

可能性

一太郎は1980/90年代、日本のワープロアプリの雄として市場を席捲していた。しかし、MS-Wordの出現により、大きく市場シェアを落とすことになった。

買い手の交渉力

日産自動車の鋼材調達先絞り込み(ゴーンショック)により、鉄鋼メーカーは大幅な価格引き下げを要求され、応じざるを得なかった。これが引き金となり、鉄鋼業界の再編が加速した。

売り手の交渉力

日本の多くの企業が中国から磁石材料のレアアースを購入(輸入)しており、今や中国は強大な輸出国となった。有事により輸入ルートが寸断された場合、各社は事業継続が危うくなる。

 

 

 孫子の兵法「彼を知り、己を知れば、百戦危うからず」ではありませんが、ファイブフォース分析により、業界/市場における競争状況を明らかにし(「彼を知り」)、そして自社の競争優位性を探ることで(「己を知れば」)、適切な戦略的判断を下すことが可能になります。そして、そこで終わりにしてしまうのではなく、このフレームワークを継続的に回して打ち手を考え、先手を取って行動していくことが事業成功の鍵と言えます(「百戦危うからず」)。

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