会社役員は必ず社会保険加入しなければならないのか?
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  • 執筆者の写真藥井遥(社会保険労務士・産業カウンセラー・キャリアコンサルタント・1級FP)

会社役員は必ず社会保険加入しなければならないのか?


代表取締役と役員2名体制で法人を設立したタイミングで、弊事務所に社会保険適用手続の依頼がありました。


法人は健康保険および厚生年金保険の強制適用事業所となるので、新規適用届の提出が必要です。

また代表取締役も設立当初から役員報酬が発生しており、被保険者資格取得届の届出を行います。


一方役員は他社の社員を兼務しており、当該法人の役員としての勤務は不定期となる予定とのこと。


この役員は社会保険に加入する必要があるのでしょうか。





原則、役員であっても法人から労務の対象として報酬を受けているものは、健康保険・厚生年金保険の被保険者となります。

従って役員は健康保険・厚生年金保険の資格取得届の提出が必要となり、労務の対象として得ている役員報酬額をもとに標準報酬月額が決定されます。


しかし役員とはいえ色々な関与の仕方があり、中にはほとんど経営に参画せずに非常勤という形で役員となっているケースもあります。


今回ご相談のあったのは、他社の従業員として勤務しながら法人の役員に就任したというケースです。

役員報酬は月額10万円、非常勤ではあるものの、代表取締役のアドバイザー兼実務者として参画予定だそうです。ただし、他社で勤務している時間のほうが圧倒的に長く、当法人に参画できるのは週に1日~多くても3日程度。


こういったケースの非常勤の役員であっても、健康保険・厚生年金保険に加入する必要はあるのでしょうか?





経営への参画の実態や報酬などを総合的に判断


先ほど述べたとおり、法人の役員は原則として健康保険や厚生年金保険の被保険者となります。


しかし、実際はほとんど経営に参画しない役員も多く存在することから、役員が健康保険・厚生年金保険の被保険者となるか否かは、「法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であり、かつ、その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものであるかを基準として判断」することとなります。





・業務の実態において法人の経営に参画する経常的な労務の提供であるか
・報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払を受けるものであるか
・定期的に自社に出勤しているか
・自社以外の法人における職を兼務していないか
・自社役員への連絡調整または職員に対する指揮監督に従事しているか
・求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていないか
・報酬が社会通念上労務の内容に相当したものであって実費弁償程度の水準にとどまっていないか


これらはどれか一つ当てはまらない項目があったからと言って、被保険者資格がないという判断にはならず、あくまでも「経営への参画の実態があり、その対価として報酬を受けているかどうか」の総合的判断基準の一つにすぎません。


ただし上記に「ノー」と答えた数が多ければ、自社で健康保険・厚生年金保険の被保険者とはならないと判断される可能性は高いでしょう。




今回ご相談のあったケースを上記の判断材料に照らすと、確かに経常的な労務提供がありそれに対する役員報酬も発生しているものの、自社以外の職を兼務しているため定期の出社はできない上、職員への指揮命令や連絡調整はほぼなく、おおよそ求めに応じて意見を述べる立場にとどまっている、ということになります。


微妙な判断ですが、今回のケースは経営への参画というよりは社外アドバイザーという立ち位置の色が濃く、被保険者とはならないのではないかと考えます。




ただし、個々のケースにより判断が分かれるところだと思いますのでこういった微妙なケースは事前に管轄の年金事務所にご相談されることをお勧めします。









他社兼業である場合は、「二以上事業所勤務届」の提出が必要な場合も


今回のケースのように、すでに他社で健康保険・厚生年金保険の被保険者となっている方が、自社の役員として就任したケースにおいては、他社と自社両方で被保険者の資格が発生することがあります。


この場合、被保険者の方がどちらかの会社を選択し、その会社を管轄する年金事務所に「二以上事業所勤務届」を提出することになります(二以上勤務届は、被保険者記入の上、資格取得届と同時に会社が変わって年金事務所に提出することも可能です)。




その後、二つの会社の標準報酬月額を合算し、按分計算された保険料が年金機構から通知されますので、自社の報酬からはこちらに記載された保険料の被保険者負担分を天引きし、そのあとは通常通り納入告知書(納付書)を使って保険料を納入する流れとなります。


通常の被保険者の保険料を確認する「保険料額表」とは異なる保険料となるため、給与計算事務においては注意が必要です。




その他、算定基礎届や月額変更届の健康保険・厚生年金保険の各種事務手続きは通常通り自社で手続を行ってください。

また、この方が資格を喪失し「二以上勤務」の状態が解消された場合も、通常通り資格喪失届を提出し、特段添付書類は必要ありません。



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