第17回:身近な事例での損益シミュレーション ー その3
- s.takashi

- 7月24日
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更新日:10月16日
今回は売上に着目したシミュレーションを行う予定でしたが、原稿を準備している間に、事例として採り上げたR店が6月末で閉店するというショッキングな出来事がありました。
R店は地元では繁盛店でしたので、突然の閉店は寝耳に水の話でした。そこで今回は話題を変え、なぜR店が閉店してしまったのかについて考えてみたいと思います。
巷間では巷間では物価高が話題にのぼらない日はありませんが、過去3年間の物価上昇率を見てみると2022年が2.5%、2023年が3.27%、2024年が2.23%で、3年で約8.2%となっています。
一方、R店のラーメン価格は2022年までは780円でしたが、2023年に880円へ、そして2024年には980円へと、3年で約25.6%のアップとなりました。
R店はカウンター8席の店舗で、880円に値上げされた頃はカウンター席に空きはほとんどありませんでしたが、980円に値上げされてからはカウンター席に空席が散見されるようになりました。
実際に私自身の購買行動を振り返ってみると、780円の時は毎月少なくとも一度は食べに行っていましたが、880円になってからはちょっと足が遠のき3か月に一度くらい、980円になってからはさらに足が遠のいて半年に一度くらいの頻度となりました。
商品の価格が上がると多くの消費者は、それが必需品であっても使用量を我慢して購買頻度を下げて節約に努めようとします。その傾向は、価格が上がれば上がるほど強くなっていきます。R店でのカウンター席の空室状況は、そのような消費者の購買行動が反映されていたように思います。
ここでR店の収支がどのように推移したのかについて、私なりに推測してみたいと思います。
R店の変動費率と固定費を次のように仮定します。

物価が上昇する前(変動費率30%)のR店の損益分岐点売上(S1)は、次のようになります。
S1 = 固定費 / (1-変動費率) ≒ 165万円/(1 – 0.3)≒ 2,357,143円
物価上昇によりR店の変動費率が35%に上がった場合、R店の損益分岐点売上(S2)は次のようになります。
S2 = 固定費 / (1-変動費率) ≒ 165万円/(1 – 0.35)≒ 2,538,462円
これらをもとに、R店の1か月あたりの損益を価格が780円、880円、980円の各ケースについて試算してみると、以下のようになります。
なお、1か月の営業日数は25日、来店客数については価格が780円の時は一日あたり130人とし、価格が880円、980円へと上がるにつれて客数が10%減少すると仮定しました。

試算の結果、値上げをすることにより売上増を図ることができますが、一方で客数減を招いてしまい、限界利益が減少することになります。結果として、固定費を賄うことがやっとという状態になっています。
試算では固定費を一定としていますが、実際には固定費も物価高の影響を受けて少なからず上がっている可能性が大きいと思われます。その場合、損益分岐点売上が上がる一方で限界利益は下がり、経営的にはより厳しい状況に追い込まれることになります。
また、試算では客数の減少を10%としましたが、実際の肌感覚として減少率はもっと大きいように感じています。
R店は固定費を賄うことが難しい状況になり、営業を続ければ続けるほど赤字が累積していくという悪循環に陥っていたと考えられます。
様々な業界で値上げを行う企業が増えていますが、中には便乗値上げとも思えるようなケースもあります。しかし、値上げを行う場合、顧客離れを起こすことがないよう、慎重に検討した上で行っていくことが必要です。R店の閉店は、そのことを教訓として示唆している事例であるように思います。
以上


