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  • 執筆者の写真seito

事業の再構築や新規事業の立ち上げについて考えてみましょう。(第7回:レビット博士の「ドリルの穴」理論)

 マーケティングの基本用語にSTPという考え方があり、代表的フレームワークの一つになっています。SはSegmentation(セグメンテーション)、TはTargeting(ターゲティング)、PはPositioning(ポジショニング)という英単語の頭文字です。

 


S、T、Pの順に考察・検討・調査等を進めていき、最初のSegmentationにおいて顧客が抱える問題・課題等の共通項で市場を細分化します。次のTargetingでは、細分化した市場の中から自社が狙っていく顧客層を絞り込み特定化していきます。そして、Positioningで特定した顧客層に対して自社の立ち位置を決め、競合他社との差別化を図っていきます。


 漠然と商品を開発して上市するのではなく、ターゲットとする顧客層を絞り込んで商品開発を進めていく手法であり、先述したFit Journey(CPF、PSF、SPF、PMF)と連携させて実践していくことが大切になります。

 

 しかし、商品をマーケットに上市してはみたものの先行する既存商品の波に飲み込まれ、計画通りに売上・利益をあげることができないという事例を多く耳にします。

一言で「差別化ができていないからだ」と言ってしまえばそれまでなのですが、数多の先行商品がひしめいている市場で差別化を図ることは難しく、もがき苦しんでいるうちにレッドオーシャンに沈んでしまうのが常です。

 

 今回は、競合がひしめくレッドオーシャンでFit Journey とSTPを連携・実践し、売上・利益を伸ばしている商品について考えてみます。


 


 皆さんは「使っている家庭用洗剤は」と問われたら、何と答えるでしょうか。多くの方が、花王やライオン、P&G等の商品名を挙げるのではないでしょうか。

 私は「ウタマロ石けん」という商品を使っています。少し大きめのエメラルドグリーン色をした固形石けんで、ワイシャツの襟首にこすりつけて洗濯機で洗うと汚れがよく落ちるのです。それまではテレビコマーシャル等でよく目にする洗剤を使っていましたが、襟首の汚れはさほど落ちず、「まあこんなもんか。でももう少し落ちないかなあ」と思っていました。その積年の思いを、ウタマロ石けんが叶えてくれたのです。

 きっかけは、田舎の母から「アマゾンでウタマロ石けんを注文して」という連絡でした。母はYouTubeを観るのが好きで、何かの拍子で画面に出てきたカンブリア宮殿「驚くほど汚れが落ちる!「ウタマロ」大ヒットの秘密」(テレビ東京で2023年1月19日に放映)の中で、母親たちがウタマロ石けんで子供の泥だらけの運動着を洗濯している場面を目にしたことにありました。母はそこに強い購買動機を覚え、実際に手に使ってみて、期待通りに汚れが落ちたことを体験したのでした。

 

 マーケティングで有名な格言の一つに、「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」(セオドア・レビット教授著「マーケティング発想法」)があります。お店にドリルを買いに来る顧客が欲しているのはドリルそのものではなく、穴をあけたいという動機にあるというものです。

 穴をあけるためには必ずしも電動ドリルである必要はなく、手動による錐でも十分に代替が可能です。この格言は、顧客が何を欲しているのかを見極め、それに適った解決方法を提供することが重要であることを示唆しています。

 さらには、顧客が何のために穴をあけようとしているのかを突き詰めていくと必ずしも手動による錐である必要性はなく、それまでは考えも及ばなかった新たな解決方法が浮かびあがってくる可能性が出てきます。

 

 再びウタマロ石けんに話を戻すと、「何のために家庭用洗剤を使うの」と問われたら、ほとんどの方が「衣類についた汚れをきれいに落としたいから」と答えます。私たちが家庭用洗剤を購入する本来の目的は洗剤を買うことにあるのではなく、「汚れをきれいに落としたい」という動機にあります。

 しかし、テレビコマーシャル等でメジャーな商品の宣伝が繰り返し放映され、当該商品の使用が習慣化する中で期待レベルが馴化してしまい、いつの間にか当該商品を手に入れることが目的化してしまっています。

 ウタマロ石けんは、育ちざかりの子供を持つ母親層に汚れが期待通りに落ちることを体験してもらい、汚れをきれいに落としたいという本来の目的を喚起することで、潜在的顧客層の掘り起こしを図ることに成功したのです。まさに、市場に溢れる既存商品と異なる商品価値を、買い手に認めてもらうことができたのです。

 

 家庭用洗剤市場において、豊富な資金力を持つ大手企業は、Targetingと Positioningをカバーするためにテレビコマーシャル等を使って絨毯爆撃を行い、不特定大多数の顧客層の取り込みを図ることができています。

 一方、資金力で大企業に劣る企業では、知恵を絞りに絞ってTargetingと Positioningを突き詰めて潜在顧客層の掘り起こしを図ることにより、オセロゲームのように石をひっくり返す可能性を見つけることができます。

ウタマロ石けんは、そのことを示唆してくれる実践例の一つであると言えます。

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